Adeleの新アルバム”30″、アナログレコード50万枚のリリース。レコードビジネスとスピード社会と。

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こんにちは、Adeleの新アルバム"30″が11月に発売されますね。

それに対してネット上で少々お祭り騒ぎが起きています。

始まりはこちらのAdeleの非公式情報アカウントによるツイートでした。

和訳しますと、ソニー・ミュージックの関係者がVarietyに語ったところによると、アルバム発売までの数ヶ月間に50万枚以上の『30』のレコード盤が製造され、これにより(アデルの今回の新譜が歴代のレコード記録を更新するだろうということです。

これに対して"そのせいで私が予約していたパンクやインディーズのレコードがプレスまでに12ヶ月もかかってます。 ありがとう、Adele。"とか、"他の多くのアーティストのレコードの発売が1年近く遅れているんですが"など、インディーミュージシャンや音楽ファンたちの怒りと皮肉の声がリプ欄に。

話題に出ているVarietyの記事はこちらですね。

レコードブームについて書かれた記事です。
CD不況が叫ばれる現在。日本でもそうですが最近の欧米は日本に輪をかけてCDはさっぱり売れず、配信とアナログレコードで音源がリリースされることが多いのです。

音源の値段がダウンロードやストリーミングによってどんどん下がっている現在、小規模のレーベルやアーティストにとって、一定の価格で売れるレコードは貴重な収入源です。

そんなレコードは最初はインディーミュージシャン内でのブームでしたが、ブームになるに従ってメジャーアーティストもどんどん限定版のレコードの発注をかけまくるようになりました。Varietyによるとレコードの売り上げは前年比で85.7%の増加ともはや音楽産業を支えるためになくてはならないものになっています。

このレコードの売り上げの伸び方はちょっと異常です。
レコードブーム自体は数年前から言われていたことで、ストリーミングサービスが広まるにつれてアナログレコードの流通量は年々増えていました。

しかしそれに加えてこの1年はコロナウイルスによる外出自粛期間が重なり、自宅での楽しみとしてレコードを求める人が増え、それによってアナログレコードの需要が爆増。

しかしブームになって需要が増えてもレコードを作ってる工場がそもそも世界に3つしかない。
そして工場のスケジュールを大手音楽会社が押さえてしまっているため、現在個人規模でレコードを発注しても1年くらいはかかってしまうという。

こちらの東洋経済の記事にもあるように、最近のレコードブームに対してレコードの生産数が明らかに追いついていなくてっていう事情はあるので、スケジュールの遅れは必ずしもAdeleだけのせいではないと思うのですけど。

にしてもインディペンデントなアーティストやレーベルが1オーダー数百枚、数千枚なのに対して50万枚は文字通り桁が違いますね。

工場の数的にフル稼働させてもレコードを作れる量がそこまでないというのもスケジュールの遅れの原因ではありますが、加えて今回のAdeleのような人気ミュージシャンのリリースをホリデーシーズンに間に合わせるために大手レーベルが工場のスケジュールに割り込んだりしているようで、小規模なインディーレーベルのレコードのリリースがどんどん遅れてくる状態。

Varietyの記事を読むと"メジャーのミュージシャンもインディーのミュージシャンもレコードのプレスのためにスケジュールを早めて待つことは同じ"と書いてありますが、結局大手のレーベルがスケジュールを押さえてしまうので小規模なレーベルは後回しにされてしまう、とも書かれています。

元のVarietyの記事では"これ自体はレコードの需要が高まっているっていうことでレーベル、レコード会社、アーティストはこれを良い結果として受け止めていると書いています。

確かにAdeleはレコードを50万枚を売り切るだけの力があるでしょうし、これだけの枚数動けば経済もかなり回るでしょう。レコードショップもAdeleのレコードを売ることでかなりの収入になるかもしれない。

工場のスケジュールはかなり遅れてはいますけどもじわりじわりと進んではいますし、インディーでもある程度の規模がある中規模以上のレーベルは工場と相談してプレスの予定をスケジュールに組み込んでいます。
Adeleのようなミュージシャンのレコードが売れることで助かる人も多いでしょう。

ただ、大手のレーベルのコネクションから完全に独立している、小規模なレーベルやインディペンデントなミュージシャンにとって恩恵はあまりないなあと思います。ていうかほぼない。

リリースが半年から一年遅れればスケジュールも立てられなくなりますし、レコードの予約販売を行ったとしても、一年も待たされればキャンセルなどの問題も多くなります。

例えばイギリスのレーベルPure Lifeもあまりに納期が遅れてるってことでシリーズ化していたレコードのリリースを中止、シリーズを休止することを発表しました。

実際、予約したところでいつまでもプレスがされないなら、こうやってレコードを作れないレーベルは増えていくだろうなあと思います。

インディーレーベルから出る数百枚ほどの限定版、そしてそれを集めるコレクターの存在は、今のレコードブームがここまで盛り上がる要因として大きいものだったと思います。
大量生産に背を向け、限定版として限られた枚数のレコードをコアなファンの人に提供する。その売り上げで新しい音源をリリースする。そういう循環も出来上がってきていました。

そういうレコードリバイバルの輪に加わって盛り上げてきた小さいレーベルほど、大手会社のスケジュール横入りによりいつまで経ってもリリースができない状況に立たされてしまう。これはやるせないなあと思います。

今回のAdeleに関しても、Sonyはせめて限定版として数をもう少し絞るか、もっと横入りなしでできる無理のないスケジュール調整はできなかったのかなあと思います。

でも同時にスピード命の今の時代、あまりにレコードのプレスまで間が空いてしまうと、それはそれで商売として問題なんだろうなあとも思うのです。

ストリーミングサービスが台頭して数年。便利さ重視、スピード重視の消費社会に対してのスローで小規模なレコード文化。
そんなふうに今のレコードリバイバルを感じていたのですが、結局凄まじい勢いで消費されていく経済の中からは出られないなあと思ったり。

複雑な思いを抱えて今日はこれくらいに。

読んでいただきありがとうございました。

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Posted by catfeeder