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Tresor31 Festivalに行ってきたよ @ Berlin Kraftwerk

こんにちは、お久しぶりの記事更新です。

先月ヨーロッパに立ち寄る用事がありまして。

その期間にちょうどベルリンのクラブKraftwerkでTresorという伝説のクラブについての展示をやっていると耳にしまして。

2022年はTresorの31周年だそうで。これは見過ごせないと思い行ってまいりました、Tresor 31 Festival @ Kraftwerk。

TresorとKraftwerk、OHMなどベルリンのクラブが協力して7月始めから8月末まで二ヶ月近くに渡り開催された今回のフェス。日によって展示の日やライブパフォーマンスの日などありまして、私が行った日に行われていたのはKraftwerkでの展示。

Kraftwerkは今は使われていない工場の建物を使ったクラブです。ここで毎年開催される音楽フェスティバルAtonalのお話はいろんな人から聞いていて、いつか行ってみたいクラブでした。

わたしがドイツをたずねた8月ごろのKraftwerkでは本来そのAtonalが開催されているのですが、パンデミックなどいろいろな事情も重なりこの数年は催されていないようです。

今回のイベントもTresor30周年である去年ではなく今年の31周年であったのは、今年に入ってやっと人を集めて大きな企画をやれる状況に変わってきたからかなと思います。

30周年にベルリンのレコードショップ、Hardwaxで行われたライブの様子。

そんな情勢の中開催されたTresor 31。今回はその展示の様子を写真多めでお届けしたいと思います。

Tresor 31 Exhibition @ Kraftwerk Berlin

今回取り上げられているのはデトロイトテクノをメインにプレイしてきたベルリンのクラブTresor。1991年にオープンし2005年に閉鎖。今はKraftwerkのお隣に移転してきています。

はじめてのKraftwerkにわくわくしながらベルリン入り。展示を見るなら時間に余裕を持ってきてねというWebサイトの注意に従い、開場時刻に現地入りしてそわそわ。

Kraftwerkに中に入ると工場跡地をそのまま使った空間が目に飛び込んできます。打ちっぱなしのコンクリートやむき出しのパイプがとてもかっこいい。

入場料を支払うと、まずパンフレットを手渡されます。中身はオールドイツ語。

私はTresorにわかでして。クラブに行ってた時知り合った子がTresorのTシャツを着ていて、それで存在を知ったレベル。

不勉強ゆえ、Tresorがベルリンの伝説的なクラブであること、ジェフミルズをはじめ伝説的アーティストがプレイしていたことくらいしか知らなかったのです。

そんな私に手渡されたドイツ語のパンフレット。当然英語の翻訳文もなく予備知識のないわたしには作品の概要が本当に全くわからない。全ての作品が2022年の新作らしいので、ドイツの駅の名前すら正確に読めず電車を乗り間違えた私にとっては予備知識があったとしても理解できなかったかもしれませんが。

大丈夫かなあーとパンフレットを受け取ると、次に渡されたのがタブレットとそれにつながったヘッドホン。

タブレットはこんな感じ。

ガイドの方曰く場内は完全に無音であり、ヘッドホンをつけて作品の方を向くと頭頂部のセンサーが反応し、自分の見ている作品の音が聞こえると。

確かにヘッドホンならば複数の映像を互いに干渉させることなく展示することができます。面白い試みだなあーと思うと同時に、本当正直に言うとですね、ヘッドホンもいいのだけれど広い工場内で反響するという噂のKraftwerkの音を味わってみたかったなあという少し残念な気持ちがこの時点ではありました。

そう思いつつこれもそうできない体験だしと、センサー付きヘッドホンをかぶり烏天狗のようになりながら展示へと進みます。

ヘッドホンを被り映像鑑賞する様子

会場内の壁にはいくつものスクリーンがかかっていて、いろんな作品が上映されています。動画作品は英語音声だったり英語字幕があったりするので何とか端々から意味を拾います。しかし英語が得意ではない私が英語にほっとする日が来るとは。

90年代初頭のテクノカルチャーに関するストーリーやデトロイトテクノの起こり、東西分裂時代の西ベルリンの資本主義に関するものなど様々な映像作品が流れていて、これは確かに時間がいくらあっても足りないと思いました。

面白いのは作品以外のスペースでも様々な音楽が流れていて、移動していると作品同士がシームレスに繋がるよう設計されているところ。

展示の音を単なるフェードアウトだけで繋げるのではなく、例えばある場所ではフィルターのようなエフェクトとともに音が変化していきます。そのおかげで作品同士が滑らかに繋がり、見る側の意識を途切れさせることがありません。

そしてこのように映像がいくつか並んでいる場所。スピーカーならお互いの音が混ざり合って聞こえるところですが、ヘッドホンをつけることにより各々の展示内容をクリアに聞くことができ、また前述のエフェクトにより、ヘッドホンならではの混ざり方を楽しめたりしました。

そして立つ場所によっては頭をちょっと動かすだけで曲が切り変わるポイントがあったりして。そこで頭をリズムに合わせて振っているとセルフリミックスのような状態になり非常に楽しかったです。側から見てたら無音の中頭をぐわんぐわんさせている私の姿は相当怪しかったと思いますけども。

今回の展示の場合、映像作品の尺が揃っているわけではないので、フェードイン/アウトだけでは展示と展示の切り替わりを違和感なく聴かせることは難しいと思います。しかしこういった音をつなげる工夫のおかげで意識の切間なく展示を堪能できました。

もちろんヘッドホンから流れる音楽は低音から高音まで非常にクリアで心地よく、さらにこういった工夫が各所に凝らされており、流石に音へのこだわりが非常に細やかだと思いました。

1階の展示はクラブカルチャーや多様性についての映像作品が多かったのですが、2階では資料的な展示がメイン。

フライヤーや資料写真一つ一つから漂う当時の熱気、そしてDIYの精神や31年経った今なお鋭く光る彼らのセンスを堪能しながらゆっくりと場内を回って行きました。ボリューム満点で1フロアを回るだけでも無限に時間が溶けていきます。

レーベルとしてのTresorのリリースがまとめられたスペースもありました。こういった展示を見ると、このクラブがベルリンのみならずどれだけ世界のテクノに影響を及ぼしたのか、そしてどれだけの出来事が積み重なってTresorやベルリン周辺の今のレイヴカルチャーが形作られているのかを感じることができます。

そんなわけで大ボリュームだった1階と2階。そしていよいよラストの3階。この3階の展示内容にわたしは大いに感銘を受け、そしてこの作品こそが今回このブログでこの展示について書きたいと思うきっかけとなる体験を与えてくれたものです。

3階展示: Anne de Vries – Stomping Ground

1階、2階の展示を時間をかけて堪能した後は3階へ。パンフレットを見ると、作品のひしめき合っていた1、2階とは異なり、フロアがAnne de Vriesによる”Stomping Ground”という作品でほぼ占められていることがわかります。

3階への階段を上り切ると目の前に広がるのは一面の砂。

今までの映像系、資料系の展示とは明らかに様子が違います。

敷き詰められた砂の中に、箒で掃き分けたように道ができています。その細い通路に沿って歩いていくと砂の中に瓦礫のようなものが見えてきました。そしてそれとともにヘッドホンからざわざわと人の声が聞こえてきます。

瓦礫に近づいていくと大きな四角いフレームが道の真ん中に現れます。このドアの残骸のような枠をくぐった瞬間、ヘッドホンから聞こえてくる音が突如ミュージックとクラブでの喧騒に変わります。

なんだこれは?と横を見ると砂でできたDJブースとターンテーブル、そして同じく砂でできたTresorの看板。

説明文を読めなかった私はそこで理解しました。

ああ、今私はTresorにいるんだ。

今でこそKraftwerkの横の工場スペースに移転していますけれど、元々Tresorは貸金庫を使って作られたクラブでした。私がくぐった枠は金庫のドア、つまりTresorのドアだったんですね。

そんなドアを通り抜けて、テクノの歴史に大きな影響を与えたTresorに、それも今はなくなってしまった過去のTresorに私は立っているんだ。音やビジュアルを通して、解説を読むことができなかった私にも理屈抜きで理解できました。できたというか、作品のパワーによって否応なしに理解させられたというべきか。

砂でできたオブジェクト一つ一つの完成度もさることながら、ヘッドホンから流れる音がこれも非常に良くできていました。単なるDJミックスが流れているわけではなく、音楽の合間に聴こえる人の話す声はもちろん、クラブの壁がキックの低音で振動する音までが再現されていたのです。

この人の話し声や物音など環境音の遠近感が本当にリアルで、もしかして会場でスピーカーを使って音を流したものが混ざって聞こえている?と思わずヘッドホンを外し確認するとあたりは無音。立っているのは工場跡地の屋内。日の光が差し込む無音の空間。そこでヘッドホンをつけると熱狂するクラブのピークタイムへタイムスリップする。この感覚が非常によかった。

映画とかゲームのような創作物の表現で、登場人物が過去を回想するシーンってあるじゃないですか。廃墟や廃屋など、今は使われていない場所に立つと過去の回想が現在の自分の周囲に被さって見えてくる表現。自分の周りで昔の残像や音だけが楽しそうにしていても、自分は過去に干渉できない事実。今はもう存在しないどこかの、自分がもう二度と味わうことのできない誰かの記憶と今の自分が交差する。そんな感覚。

今自分が立っているKraftwerkが放つ、廃墟特有の孤独感や懐かしさ。熱気にあふれた過去のTresorが与えてくれる高揚感。二つが混ざり合い、一つの大きな感情となって私の心を揺さぶってきました。

ヘッドホンで展示を見る意味、Tresorの周年でこの展示をやる意味、そしてそれらに工場跡地であるKraftwerkという空間で展示をする意味などが緻密に噛み合ったこの作品は、本当に言葉が出ないくらいに美しかった。

そもそも私こういうコンセプトがしっかり固まったアートに弱いんですよ。そして作品としてシンプルにクオリティが高い。

砂で作ったTresorはDJブースだけではなく、煉瓦造りの壁やバーカウンターのお酒、そしてトイレまでも砂で再現されていました。

Tresorに実際に行ったことも見たこともない私にも問答無用で刺さってくる作品の強度でしたよ。

これはわたしの好みの話ですが、素晴らしい作品っていうのは言葉を超えていくものだと思うのです。

もちろん作品の解説やステートメントを読むことで完成したり、見え方が変わるアートも素敵だと思うんですけど。

そういう情報抜きでただ目の前の作品のみに自分が向き合った時、その作品の強度に打ちのめされる体験。

わたしの思う作品の「強度」とは、作品の裏に込められた想いやコンセプト、細部まで手を抜かない技術や執念などそういった要素に裏打ちされた「強さ」であり、しかしそれらを説明しなくともこちらに作品の完成度として伝わってくる「強さ」。

そんな作品が大好きなわたしにとってこの展示はすんごく刺さりました。

もしかしたらステートメントなどを読むことができなかったおかげでより新鮮に作品を味わえたかもしれません。ドイツ語が読めなかったのが悔しいのでそういうことにしておきます。

そんなわけで最初にヘッドホンにがっかりしたのもどこへやら。むしろヘッドホンならではの表現やアートに触れる、非常に得難い経験ができました。

強いてこの展示の欠点を挙げるとするなら、砂埃がすごくて喉にめちゃくちゃ悪いことですね。展示の性質上仕方ないこととはいえ、ヨーロッパの乾燥でやられていた私の喉に完全にとどめを刺していきました。

写真でもわかる砂埃。

展示を見終わったあと屋台でモヒートを飲んで喉を消毒。喉がやられたから仕方ないです。新鮮なミントいっぱいでとても美味しかった。

Tresorカップがかわいい。

短い滞在期間でしたが、ハイレベルな展示と音響、美味しいお酒で非常に満足のドイツでした。

2023年からはAtonalが復活するようですのでそれもいきたいですね。Kraftwerkを再び訪れ、ドイツのテクノを体験できる日を非常に楽しみにしつつここまで。

読んでいただきありがとうございました。

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