こんにちは、今日はSleaford Modsを聞いていました。
Sleaford Modsはイギリス中部、ノッティンガムの音楽デュオ。名前の通りモッズ文化にルーツを持ちつつ、サウンドはシンプルでぶっといベースラインとドラムに訛ったラップ。
彼らの音は非常にシンプルだけど音一発一発が非常に重量感があってかっこいいです。そして音遊びが非常に面白くて何度も聞き返してしまいます。
遊び心と骨太さが私の好みを絶妙についていて、一聴して非常にはまりました。ミニマルな構成とぶっとい音ってご飯に焼き魚くらいの黄金コンビだよね。
ボーカルはJason Williamson。Sleaford Modsの特徴であるシニカルで真っ直ぐなメッセージももちろん、ライブでもコミカルでキャッチーなダンスや怒りと切実さに溢れたシャウトや、様々なパフォーマンスでステージを盛り上げています。
ライブ中ボーカルの横でお酒飲みながら揺れてるのはトラックメイカーで、Extnddntwrkとしても活動するAndrew Fearn。音源制作時はもちろん、ライブでも非常にいい味を出していると思います。
そんな彼らが2021年にリリースしたアルバム”Spare Ribs”が非常に良かったのでブログにしようと思ったのです。
このアルバムはイギリスの社会や偽善、不平等、無関心なんかについての怒りがシニカルに取り扱われています。
例えば2曲目であるShortcummingsはイギリスの政治アドバイザーであるDominic Cummings氏がモチーフであり、彼の名前とShortcomings(=欠点)を掛けている曲名からもわかる通り政治への痛烈な批判ソングです。
この曲については選挙で選ばれていないはずの存在が増えていくことへの危機感と怒りについての歌だとTwitterで本人が述べていたり。
I wrote the lyrics to Shortcummings in late 2019 after becoming annoyed by Dominic Cummings increased unelected presence. The arrogance of the privileged generally leads to short, short short, short, short cummings in a momentary centre stage at the cost of untold human misery 1/
— Sleaford Mods (@sleafordmods) December 2, 2020
そして3曲目はAmyl and the SniffersのメンバーAmy Taylorをボーカルに迎えたNudge It。私は最初この曲にやられました。
労働者階級の味方づらして音楽を売ろうとするミュージシャンへの怒りや皮肉が歌われていて非常に刺激的。
“Stood outside an highrise , Tryin’ to act like a gangsta” (高層ビルの外に立ってギャングスタのように振舞おうとする)や”You’re just a mime that’s spraying and praying on walls”(お前は壁にスプレーして祈っている風のパントマイムをしてるだけだろ)なんて歌詞をアングラメジャーインディーどこもかしこもHIPHOPな2021年に歌うあたりすごく痺れると思いませんか。
こう言った”労働者階級の味方ぶって音楽を売ろうとすること”について Sleaford Modsはこの前グラストンベリーにも出演したIDLESとの確執がある様で舌戦を繰り広げることもしばしば。
IDLESはHIPHOPではありませんが、この”Nudge It”の歌詞がHIPHOP自体への批判というわけではないですしね。ラッパーに対してというよりはもっと広く、自分を偽ること、何かを騙ることに対しての怒りや不満っていうものかなと思います。
彼らは音楽的にはHIPHOPの影響を受けているのは聞けば明白だし、HIPHOPの大御所Wu-Tang Clanへのリスペクトを公言していたり。
彼ら自身がHIPHOPを愛してやまない分、そう言ったギラギラした何かと一緒にしてくれるなよって感じにも取れます。彼らの音楽はどう聞いてもそういった虚飾的な感じとは無縁だと思いますが、それでもこの歌詞を”Sleaford Modsそのものについての歌詞だ!”なんて解釈する意見も調べてたら見ちゃって。まあ好き好きだと思いますが、そういう意見も含みでこの歌は皮肉ってる様にも思えますし。深く解釈しようとするといくらでもとれるね。
“アメリカ風のなまりを真似してラップするイギリス人”に対しても思うところがある様で、このインタビューで触れてたりします。
このインタビューは使用機材についていろいろ言ってるんですが、彼らは作曲の際モジュラーシンセにカセットからのサンプルやRoland – SH-01Aみたいなシンセサイザー以外にもKORG Gadgetというシンセサイザーシミュレーターアプリの音なんかを使ってることを触れていて。それについての言及の仕方が面白いです。以下に和訳。
「”芸術の制作技術 “については多くのことが書かれている、本当の音とかそういうくだらないことが。”本当の音”ってなんだ?”Cuddly”や”BHS”のような曲について考えてみよう。どちらもiPadのKORG Gadgetアプリを使って作ったものだ。私はどうすればいい?曲をコンピュータに入れて、シンセの音を本物のアナログシンセのようにしようとするのか?そんなことをして、誰を騙そうっていうんだ?」
この姿勢もまた、いわゆる騙し、欺瞞への怒りという彼らの曲と一貫していて面白いです。
そういう主張のこもった音楽って言語を飛び越えてぶっ刺さる強さがありますよね。私には刺さった。
このアルバム”Spare Ribs”、収録曲の”All Day Thicket”や”Fishcakes”なんかはもう少し私的な歌詞の様ですが、全体的には不満への怒りが歌われていて非常にパワフル。だけど過ごしてきた年月の重みゆえか、怒りに振り回される様な勢いというより、不満を自覚し乗りこなすクールさを感じます。
何かと若さがもてはやされる昨今ですが、若さの持つ勢いももちろんいいけど歳を重ねた故に出せるものってあるよね、と思います。どちらも可能性は無限大。
BlurやOasisあたりのブリティッシュリバイバルでもイギリスの象徴として使われたモッズ。それを身にまといつつ国のどうしようもなさを歌う彼らから私が感じるのはイギリス文化への愛と、愛がゆえのやるせなさです。
それはファッションだけでなく音楽を聞いてても感じることで、例えばSleaford Modsの音楽を聞いてみると、前述したHiphopやモッズ文化はもちろん、クラブミュージックやパンクス、ブリティッシュロックリバイバルみたいないろんな文化からの影響も感じ取れて。彼らはいろんな音楽や文化に対して非常に愛が深いんだろうなって思うのです。
そんな彼らの作品から漂う音楽への深い愛と愛ゆえの絶望感、でも腐っててもどうしようもないし、好きなことをやるしかないっていう闘いの姿勢みたいなものを私は勝手に感じてしまって、それが私には非常に刺さるのです。こういうのってどこの国でも一緒ですね。
どれだけ技術が発達しても、周りの情報なんかに簡単に踊らされるのは今も昔も変わりません。国は違えど音楽好きって結局情報好きなんだなと感じることは私にだっていっぱいありますし。そんなこと言いつつ音楽の情報をまとめたブログを作ってる自分のこのわけわからなさにげんなりしたりね。
でも仕方ないじゃないですか、音楽を聞くのも、そんな音楽を取り巻く文化も含めて好きなのですもの。そして好きが故に勝手に絶望するのです。
そんな混沌としたやりきれない世界の中でやりきれなさを楽しげに表現している彼らをみていると、その美しさに私は非常に元気をもらえるのです。
なのでこの”Spare Ribs”はヘビロテすると思います。好き。
読んでいただきありがとうございました。
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