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St.VincentとBillie Eilishのイメージチェンジから見る懐古主義と流行と。

こんにちは、Billie Eilishが4月にシングル”Your Power”を公開しましたね。

楽曲もアコースティックギターが前面に出ていてビートはかなり落ち着いた感じに。

7月には新アルバムを出すらしいので、先行シングルのようなものなのでしょうか。

そしてリリースだけでなくMV公開とともにイメージチェンジを行なって、そちらもかなり話題になっていましたね。

話題になるだけあって思い切ったイメチェン。

緑髪でヒップホップでお団子ヘアでアニメ柄のシャツを着てた子がいきなりこのビジュアルになったら確かにどよめきますわ。

そして5月に入ってSt.VIncentが新譜を出しましたね。

https://www.instagram.com/p/CO20lnUNV0A

あれ?似てない?

いや服装の細部は違うんだけど、なんかビジュアル全体で出してる空気が似てませんか。ていうか二人とも70年代に露骨に寄せてきてないですか。

ポップス界でもかなり尖って個性派で、我が道を行くタイプの二人を安易にまとめてしまうなんて我ながら暴挙だよなとも思いますが、でもなんだか似てないですか。

同じ年代をモチーフにすれば似るのは当然で、たまたま二人とも同時期に70sをテーマにしただけかもしれないのですが。ただ似てると感じたのはこのビジュアルを比べて感じなだけじゃなくて。

例えばSt.Vincentの一個前のアルバム”Masseduction”を出したときはこんな感じでしたね。

https://www.instagram.com/p/BZ1hXRRDGsr

MVもアートワークもネオンカラーが基調な感じ。アルバムもギターをガンガン弾きつつ全体にはエレクトロっぽい音が多くて、あと低音がとにかくえぐかった。

そしてBillie Eilishも最近までこんな感じだった。

ネオンカラーの髪色とビジュアルイメージに、ウィスパーボイスを特徴としつつ音楽はノイズもガッツリ取り込んだエレクトロ系。あと低音がとにかくえぐかった。

書き出してみて気づくこの類似っぷり。

いや、でも今までこの二人が似てるって思ったことはなかったんですけどね。今回のイメチェンであれ?ってなって。

そしてこのネオンカラーからベージュ中心のビジュアルへの振れ幅っていうのがもうね。

重ねて言いますが、私はこの二人のことが大好きで前作も発表当初から聴いていましたが、今までこの二人を似てると感じたことはありませんでした、ただ今回のイメチェンをきっかけに過去まで振り返るとあれ?似てる?って。

そんな70sリスペクトなお二人の今作は曲を聴いてみてもどっちもダウンテンポでアナログな感じですが、これはステイホームが中心の今の時代の空気を反映するとそうなるのかなと思います。この二人に限らずゆったりとひとりの時間を楽しめるような、聞き入るような曲のリリースが増えたとは思いますよ。

しかしこの二人は振れ幅がえぐすぎる。

ビジュアルだけでなくSt.Vincentは音もガッツリ70sに寄せてきていて、アルバム2曲め、Dawn And Out Downtownなんかギターソロの入れ方やメロディライン、ベースのリズムなんかがBonnie Raittぽいなあと思ったり。まあこれはパロディーというかオマージュというか。

まあSt.Vincentは元々Talking headsから影響を受けてると自分で言ってますし、女David Bowieなんて言われたりもしましたし。過去の流れを見た上で今回のアルバムを聞くと、作風自体言われてみれば納得ですよ。

Strange MercyをリリースしたりDavid Byrneとコラボしてたときは低音重視というよりは複雑なハーモニーやゆったりとした音作りが特徴だった気もしますし。

(あと見た目も黒ワンピースに赤いリップで可愛い系だった。前作の蛍光ピンクタイツの衝撃は正直今回の70sリバイバルの比じゃなかった。)

Billie Eilishも前作”When We All Fall Asleep, Where Do We Go”の低音ゴリゴリの印象が確かにありますが、過去にはBellyacheみたいなカントリーに影響を受けたっぽい曲も出してましたし、ライブではお兄さんのギターに合わせた弾き語りを披露することも多いし。

それに”everything i wanted”や”my future”のような最近のリリースを聞いていたので、チルな作風やアコースティックメインな曲の方向性にも違和感はないです。デビュー作のOcean eyesもJames Blakeに影響を受けたようなアンビエントっぽい感じだったし。

そう思うと二人とも単に好きな音楽の幅が広くて、それをいろんな作品に反映させているだけな気もしますね。というか過去作を見るにどちらも前作が異色作なだけだった可能性すらあります。

いやしかし振れ幅よ。

影響を受けたものが多様だったとして、実力がありいろんなジャンルの音楽ができるとして、前作がかなりの評価を受けた上でここまでフルスロットルの振れ幅を見せられるかはまた別の話ですよ。すごい。

そう考えると二人とも度胸と思い切り、そして我が道を行く強さって部分が一番似ている部分な気がします。

しかし音楽性は置いといて、ファッション面で寄せた方向が両方70sを意識するものだったのは興味深いです。

昔へのリバイバルは今に始まったことじゃなくて、2010年代がVaporwaveを中心とした80年代リバイバルから始まって、ネオンカラーにVHS、フィルターをかけたLo-Fiなサウンドに80sのアニメをループで乗せて。

音楽的にはVaporからFuture Funkに行き、Night tempo主導で竹内まりやをはじめとした日本アイドル再評価の流れがあり、80年代であればアイドルの曲にとどまらずCM音楽、果ては天気予報のBGMまで引っ張り出されてくる、まあ一つのお祭りみたいな年代だったなと。

こういうの。Signalwaveともいう。他にやってる人は知らない。

流行は巡るし感性も巡る。なのでリバイバルには不思議はないのです。

ただ本当に巡るなら2020年代は参照元が90年代へと移行していくかなって思うじゃないですか。実際日本の中ではインディーメジャー問わずシティポップというか和製R&B的なところを意識した匂いを強く感じる瞬間はしばしば。

ではいざ2021年になったアメリカをみてみるとポップスの中でもかなり尖ったことをやっている二人が同時期に70年代感の漂う感じに。あ、戻る感じなのね、と。

懐古主義が加速しているのか単なる偶然か、年代問わずのリバイバルブームなのか。アメリカで70年代ブームが起こっていると思うべきなのか、単に目立つ二人が目立つタイミングでたまたま揃ってイメージチェンジをしただけなのか。私にはよくわかりません。

リバイバルに流行は関係ない気もしますし、90年代が好きな人も50年代が好きな人も同時代の同年代に確かに存在しますから。ただインディーズじゃなくて商業的なポップのビッグリリースでこんなにイメチェンのタイミングがかぶるっていうのは何か流れがあるのかなあと考えてみたりもするわけです。

まあ流行だけでいえば本当に多様化してきていて、Lo-Fi評価の流れはそのままにHyperpopやNFTアート界隈みたいなギラギラな一派も出てきてますし。あのHyperpopあたりのみんながよく使う、溶かした金属みたいなロゴの始まりは誰なんでしょうね。

そんな風に20年代は始まったばかりですが、流行がどういうふうになるかはわかりません。わかったところで、むしろわかった上で乗っかるのも何かなあって気もしますし。

だってハイファイにしろローファイにしろ、ノスタルジーにしろ未来主義にしろ、どの路線の支持層も絶対消えないと思うんですよね。大きな流行はあったとしても、世界の人とインターネットで繋がれる時代なので。どれだけ主流と離れたコミュニティでも、小さな流れを集めればそれは非常に太く強烈になります。

実際Vaporwaveをはじめとしたシティポップや日本アイドル再評価って、そういう小さな流れが集まって可視化されやすくなったからではないでしょうか。そう思うと非常に未来的な流行ですね。

つまり何が言いたいかというと、今は自分の好きを貫き通せば絶対一定数の支持者を見つけることができる時代だと思います。むしろ流行を追って風見鶏状態になるのが目立ってしまう時代なのではないかと。ファンの人って鋭いですからね。

自分の好きなものを語るとき、それはどれだけ新作であろうと過去のものです。近い過去か遠い過去か、それだけの違いです。だから何かに影響を受けるとき、過去を蔑ろにすることはできません。

過去に敬意を払い、自分の好きなものを胸を張ってはっきりと表現する。その美しさと強さはいつの時代でも人を惹きつけるものだと私は思います。そしてそうやって自分の好きなものに正直な人が、私は大好きです。

今回取り上げた彼女たちの新作は、そう言った自分の好きなものへの正直さとそれを受けて自分も何かを作りたいという欲求に満ちたものだと私は思いました。ときめきます。

次は何をしてくれるのか。これからもBillie EilishからもSt.Vincentからも目が離せませんね。ワクワクしながら今回はここまで。

読んでいただきありがとうございました。

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